福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1144号 判決 1949年8月08日
被告人
首浦勝
主文
原判決を破棄する。
本件公訴を棄却する。
理由
弁護人牛島の控訴趣意は、末尾添付の書面記載の通りであつて、右に対する判断は次の通りである。
昭和二十三年法律第百六十八号少年法第四十二條第二十三條第四十五條等の規定によれば、檢察官は、少年の被疑事件について搜査を遂げた結果犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致し、家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮にあたる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照して刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対應する檢察廳の檢察官に送致し、檢察官は家庭裁判所から送致を受けた事件について、公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料するときは公訴を提起しなければならない。すなわち、少年法は少年の健全な育成をはかるため、少年に対する処遇に関し特別の措置を講ずるのを適当とする建て前のもとに、公訴提起の方式についても、右のような特別な規定を設け、少年事件は、常に必ず家庭裁判所の調査を受くべきものとし、その調査の結果家庭裁判所から送致された後始めて、檢察官に於て公訴提起の措置をとるべきものとし、家庭裁所の調査を経ないままでの公訴提起の方式はこれを是認していない。
今本件についてこれを見るのに、被告人は、昭和六年四月十四日生であつて、昭和二十四年三月八日公訴提起の当時、まだ満十八才に達しない少年であるのに、本件について、家庭裁判所の調査を経た事跡は、記録上これを認むべき何らの資料なく、本件控訴の提起は事件につき家庭裁判所の調査を経ることなくしてなされたものと認めざるを得ない。このような公訴提起の手続は、少年法の前記各規定に違反するものであり、少年事件の取扱に関し少年法の上で認められた少年の重大な利益を損うものであつて、無効であると解するのか相当である。被告人に対する原判決の刑は、記録に現れている被害の数額、犯行の態樣、犯罪の動機情状等に照らし、必ずしも不相当であるとは認められないのであるが、本件公訴提起の手続は、右説明のとおり、その規定に違反したため無効であるから、刑事訴訟法第三百三十八條第四号に則り、本件公訴は判決をもつてこれを棄却すべきもつであつて、その措置に出なかつた原判決は破棄を免かれない。
よつて、爾後の論点に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七條により原判決を破棄すべきものとし、但し本件記録により、直ちに判決をすることができるものと認められるので、刑事訴訟法第四百條第四百四條第三百三十八條第四号に則り、本件公訴を棄却すべきものとし主文の通り判決する。